黒魔術部の彼等 ディアル編5


キーンの家で食事をした後、ディアルは自分の家へ戻る。
ソウマも帰宅しようと思ったとき、キーンに呼び止められた。

「ソウマさん、ちょっとよろしいですか」
「どうかした?」
「ソウマさん、ディアルさんともっと大胆なことをしてみたいですか」
胸の内を探られたようで、ぎくりとする。
「それなら、して差し上げたらいいんです。ディアルさんはきっと拒みませんよ」
「そう・・・かな」
勇気づけてくれようとしているのかと、期待したけれど

「あなたの場合、相手のことを本気で求めれば霧の力が発動するかもしれませんし」
即座に、肩を落とした。
「・・・それにしても、その、霧って一体何なんだ」
「さあ?」
あまりにもあっさりと言われて、拍子抜けする。

「力はあって損するものではありませんし、早く使いこなせるようになるといいですね」
キーンは笑顔で言ったが、裏には他の意図が見えるようだった。
「でも、まだキスしただけで・・・」
「大丈夫でしょう。ディアルさんは強力な超能力者ですから、嫌なら跳ね飛ばしていますよ」
その力で、自分の方へ引き寄せてくれたことを思い出す。
それでも、ここから先はかなり勇気のいることだった。


そうしてもやもやとしているとき、夜にディアルに呼び出された。
タイミングがよすぎて、きっとキーンが何か言ったのだろうと察した。
「急に呼び出して悪いな」
「いえ、嬉しいです。どこへ行くんですか?」
「静かな場所だ」
ディアルが転送装置を動かし、紫の輪が出現する。
中へ入り、しばらくすると周囲の雰囲気が変わる。
そこは、黒い色調でシックにまとめられた店で、明らかに学生は場違いな店だった。

「あ、あの、ここ・・・」
平然としてディアルが中へ入ると、すぐにスタッフが出迎える。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます、こちらへどうぞ」
常連なことに驚きつつ、慌てて後を着いて行く。
個室に通されると、ブロックのような四角いテーブルと高級そうなソファーがあって恐縮した。
ディアルが座ると、控えめに隣に腰掛ける。

「飲み物は、甘い方がいいか」
「あ、はい、お願いします」
テーブルの上にはタブレットがあり、それで注文する。
「キーンから、お前がオレと話したがっていると聞いた。ここなら長居してもいい」
「それは、嬉しいんですけど・・・ここ、すごく高そうですね」
「お前は気にしなくていい」
たぶん、学生の身では恐縮するような場所なのだが
ディアルはやけにしっくりきていて、違和感がなかった。

「何が聞きたい」
「あー、えっと・・・」
まごまごしていると、テーブルの中央が空いて2つの飲み物とチーズの盛り合わせが出てきた。
片方は茶色く、片方は無色透明だ。
ディアルが透明の方を取ったので、茶色の方を取る。


「・・・これ、アルコール入ってない、ですよね?」
「入っていない」
それなら安心だと、飲み物に口をつける。
甘さ控えめのカカオの味と、まろやかなコーヒーが混じっているような不思議な味わいがする。
これはお子様向けだとしても、ディアルが飲んでいる姿を見ると、アルコールが入っていない方が不自然に見えた。

「ここはよく来るんですか?」
「ああ。一旦入れば誰も来ない、静かな店だ」
黙ってしまえば、聞こえてくるのはバイオリンとピアノのクラシック調のBGMだけ。
静寂を好む人とっては、居心地の良い空間に違いなかった。

「ディアルさんって、大人びた雰囲気が好きなんですね。違和感ないです」
「一人が好きなだけだ」
その答えに、質問が浮かぶ。
「・・・ディアルさんって、校内で見かけたことないんですけど、もしかして部活にしか出てきていないんですか」
「ああ」
さらりと、当然のような返答。
グラスを空にして、一息おいてから続ける。

「筆記と実技試験で高得点ならそれだけで認められる、都合の良い所だ」
確かに、今の学校はとりあえず優秀な生徒を輩出できればいいという風潮がある。
それでも、他校に比べればだいぶレベルは高く、並々ならぬ努力が必要なはずだ。
「何で・・・人と関わりたくないんですか」
「疎ましいからだ」
ディアルは、タブレットで注文しつつ普通の事のように言う。

「人の顔色を窺いながら言葉や態度を選ぶ人付き合いが、オレにはできない」
「・・・生きていくには、必要ないことです」
また、テーブルの中央が空いてオーダーしたものが出てくる。
今度は、澄んだ青色と、薄いオレンジ色をした飲み物だ。
青い方は格好良いカクテルグラスに入っていて、お酒ではないかとますます疑わしくなる。
ディアルはその青色の液体を飲み、言葉を続ける。


「オレはとても鈍感で、感情が表に出ない。接し難い相手と認識されるのは自然なことだ」
「それでも・・・僕はそんな雰囲気に惹かれます」
ディアルは黙り、グラスを傾ける。
大人びた雰囲気に、いつも変わらぬ表情。
普通とは違う相手は、誰だって持て余す。
そんな相手に惹かれる自分も、普通ではないのだろう。
黒い霧は、そんな人達の象徴なのかもしれなかった。

「はっきり言うと、オレは社会不適応だ。協調性を持って集団で生きていく力はない」
「そんな生き方があってもいいと思います。法に触れているわけじゃありませんし」
「・・・お前は、やけに前向きだな」
「ディアルさんのことだから、そう思うだけです」
反応に困っているのか、ディアルは目を逸らす。

「お前も不思議な奴だ。言葉をかけられて微笑むこともできない奴の側に居たがる」
「むしろ、ディアルさんが表情豊かだったら無関心だったかもしれません。
今のあなただから、惹かれたんです」
まるで口説き落とすような文句が、恥ずかしけもなく出てくる。
ディアルはグラスを空け、伏し目がちになる。
こっちを見てほしくて、すぐ側に寄って腕を触れさせた。

「あなたが何を考えて、どう感じているのか知りたい。けど、口に出さなくてもいいんです」
ディアルに迫り、身を寄せる。
超能力で跳ね飛ばされないことが、たまらなく嬉しかった。
何をされるのかわかっているのか、ディアルが目を細める。
その視線が艶っぽく見えて、自然と唇を寄せていた。
静かに重なり、お互い目を閉じる。
想いを言葉に出して伝えられなくとも、こうして触れ合えることだけでも通じ合っているような気になれた。


誰も入ってこないとはいえ、外なのでほどほどにして身を離す。
唇には、独特な香りと味が移っていた。
「・・・これ、やっぱりお酒なんじゃないですか?」
「アルコールと類似しているが、成分は弱い。気分を味わえるだけだ」
さっきから妙に饒舌になっているのは、たぶんそのせいだろう。
気分を味わえるだけというのなら、調子に乗ってしまってもいいだろうか。
さっき注文したオレンジ色の飲料を、一息に飲み干す。
オレンジジュースに他の果物がブレンドされているような複雑な味わいだけれど、珍しい味でおいしかった。

「弱いとは言え、一気に飲むと回るぞ」
「変わったジュースみたいでおいしいです。ディアルさんも、お代わりしますか」
タッチパネルの画面を見ると、色とりどりで、聞いたことのない名前の飲み物が揃っている。
色合いだけで適当に選んで注文すると、ほどなくして薄紅色と黄緑色の綺麗な飲み物がテーブルから出てきた。
どちらともカクテルグラスに入っていて、薄紅色の方を取る。
一口飲むと、独特な香りが強くてとても一気飲みはできそうにない。
けれど、さくらんぼの風味がして味は良かった。

「ディアルさん、この後・・・家に、行かせてもらえませんか」
即答はされず、少し間が空く。
「・・・好きにすればいい」
その答えには、家に行くことと、その身のことが含まれている気がした。




最後の一杯を飲み終えた後、ディアルの家へ行く。
山ほどあった本は整然と棚に揃えられ、部屋の両側に納まっていた。
ディアルが部屋の奥にあるベッドに腰掛けると、逃さぬようにその上に乗る。
気持ちが浮つき、理性は抑止力を無くしていた。
嫌になれば、跳ね飛ばされるはず。
それまで、触れさせてほしい。
膝立ちになり、ディアルの耳元へ近付く。
ふ、と吐息をはくと、舌で耳の形をなぞっていった。

耳朶から、ゆっくりとなぶっていく。
特に声が漏らされることはなく、効果は薄いようだった。
以前のキーンの行為を思い出し、その中へも舌を進める。
そこでやっと反応があり、肩がわずかに動いた。
少し大きく動かして、わざと音が出るようにすると
ディアルが溜息のように、吐息をつく音が聞こえてきた。
不感症ではないと安心すると同時に、もっと触りたいと欲が出る。

耳への愛撫はそこそこに、再び正面に回る。
跳ね飛ばされないだろうかと、少し間を置いたが体は浮かない。
ディアルの服のボタンを外してゆき、一番下まで取る。
前がはだけると、とても白い肌が露呈した。


「肌、すごく白いんですね・・・」
「日の当たる場所は好きじゃない」
それは、直射日光が当たる場所と、人付き合いでの立ち位置の両方を示しているようだった。

指先で肌をなぞると、傷一つないしなやかな感触が伝わる。
そうやって撫でていると、ディアルが初めて動きを見せた。
飛ばされるかと思いきや、指が服のボタンをなぞっていく。
それだけで次々と外されてゆき、すぐに同じ状態になった。
とたんに、体が引き寄せられる。
素肌が重なり、お互いの体温が直に感じられて心臓が跳ねた。

1枚隔たりがあるときとは、まるで違う。
心音が共鳴していることがわかり、どうしようもなく高揚する。
そして、相手も重なり合うことを望んでいると思うと、抑制は完全に外れていた。
急激に背がざわつき、黒い蜘蛛の足が出る。
その足は下方へ伸び、そこの隔たりも取り払おうとする。

「ディアルさん、触れたい、重なりたい、あなたが欲しい・・・」
表に出た本能は、もう止まらない。
ズボンをずらし、下着へ手を伸ばす。
そして、中にあるその身を包み込んでいた。
「っ・・・」
ディアルが、わずかに顔を歪ませる。
ゆっくりと前後に手を動かすと、声を堪えるように息を吐いていた。


「・・・不快ですか?」
「いや・・・戸惑っているだけだ」
人と関わりを持っていなかったのだ、触れられたことなんてないだろう。
触れ続けていると、その部分が熱を帯びてくる。
ディアルの視線も、どこか違う。
眉根を下げ、困惑しているようにも見えて
呼吸のたびに漏れる熱っぽい吐息が、さらに欲望を掻き立てた。
自分のものも興奮し、下腹部が窮屈になる。
すると、蜘蛛の足が下の衣服をずらし、昂っているものを露わにさせた。

「ディアルさん・・・一緒に、感じていたい」
ディアルものも表に出し、隙間なく身を寄せる。
下腹部にあるお互いが重なり合うと、蜘蛛の足がディアルの背に回された。
同時に、ディアルからも蛇竜が姿を表す。
それは、この身を離すまいと二人の体に巻き付く。
異様な光景だが、もはや気にならない。
手を広げ、下肢の触れ合っているものを強く握り込み密接にさせると
どくん、と脈動し、悦んでいるのだとわかる。
ろくに擦ってもいないのに、自分からは先走ったものが溢れてきていた。
その液は手にまとわりつき、卑猥な感触と共に二人の身を撫で回す。

「は、あ・・・ディアルさん・・・」
何とも言えない淫らな感覚に捕らわれ、求めるように相手の名を呼ぶ。
声は抑えているようだったが、ディアルの目は虚ろいでいた。
たまらなくなって、下肢の手はそのままに、ディアルに口付ける。
閉じる余裕のない唇へ、迷わず舌を入れて柔らかなものに重ねた。
同時に手を上下に動かして猛りを刺激すると、熱っぽい吐息が交わる。
欲望のままに絡ませると、下肢も敏感に脈打つ。
蛇竜と蜘蛛はお互いを捕らえて離さず、上でも下でも液で濡れる音が交わっていた。

一時も止まない手の動きに、口付けたままでは呼吸が苦しくなってくる。
絡まりを解き口を開放すると、間近でディアルの様子がわかる。
普段の平坦な表情がわずかに崩れ、その眼差しは真っ直ぐに相手を見つめていた。
欲を帯びた艶っぽさに、惹かれずにはいられない。

「嬉しいです、僕にそんな視線を向けてくれて・・・」
「ああ・・・とても熱い。体の内側から湧き上ってくるようだ」
欲情してくれている。
湧き上っている熱を昇華したい。
恥じらうことなく自身を押し付け、掌全体で精一杯愛撫する。
指の腹も使って先端を擦ると、ディアルの息が不規則になった。
ここが弱いのかと、その部分へ執拗に触れる。

「っ・・・ソウマ」
優しい声で呼ばれ、余計に攻め立てたくなってしまう。
触れ続けていると、その部分が熱を帯びてくる。
ディアルの視線も、どこか違う。
眉根を下げ、困惑しているようにも見えるけれど
呼吸のたびに漏れる熱っぽい吐息が、さらに欲望を掻き立てた。
自分のものも興奮し、下腹部が窮屈になる。
すると、蜘蛛の足が下の衣服をずらし、昂っているものを露わにさせた。

ディアルものを露わにさせ、隙間なく身を寄せる。
下腹部のあたりにあるお互いが重なり合うと、蜘蛛の足がディアルの背に回された。
同時に、ディアルからも蛇竜が姿を表す。
それは、この身を離すまいと二人の体に巻き付く。
異様な光景だが、もはや気にならない。
手を広げ、下肢の触れ合っているものを強く握り込み密接にさせると
どくん、と脈動し、悦んでいるのだとわかる。
ろくに擦ってもいないのに、自分からは先走ったものが溢れてきていた。
その液は手にまとわりつき、卑猥な感触と共に二人の身を撫で回す。


「ディアルさん・・・あなたの達したところが見たい」
下肢を濡らす液は、もはやどちらのものかわからない。
執拗に、弱い箇所を刺激していく。
ただひたすらに、相手の精を求めていた。
限界が近いのか、ディアルの息遣いが乱れる。
その瞬間、先端を強く握り込んだ。

「っ、あ・・・」
初めて、ディアルから堪えられない悦を感じた声が出る。
そして、掌には粘液質な白濁が放たれていた。
「ああ、ディアルさん・・・!」
掌の精を自身のものにまとわりつかせたとき、興奮が最高潮に達する。
溢れ返った欲望はその場に散布され、卑猥な感触を残していた。

達した余韻に浸る前に、ディアルを見上げる。
欲が消化され、その眼差しはおぼろげで、頬は朱を帯びている。
この表情が見たかった、快楽を感じた後の姿を。
自然と頬が緩み、ゆっくりとディアルにもたれかかる。
同時に、背に腕が回され、大きな安らぎを感じていた。




翌日、普通に部活へ行く。
黒い霧が出た後でも体のだるさはなく、自分に浸透したのかなと思う。
ディアルは部室で本を読んでいたが、姿を確認すると顔を上げた。
「あ、いえ、お気遣いなく」
そうやって、顔を上げてくれるだけでも嬉しい。
ディアルは読書に戻ったが、どこからか椅子が飛んできて隣に並ぶ。
足は自然とそちらへ進み、すぐ傍に腰かけた。

無表情で、口数が少なくて、本の虫の彼だけど
あんな行為をした後でも、同じように傍にいさせてくれる。
それだけでも、心は満たされていた。

「・・・今度、どこかへ行くか」
「いえ、ディアルさんと居られるなら、部室でも、家でも、僕は幸せです」
ディアルが本から目を外し、向き合う。
迷わず唇を寄せ、軽く重ねてすぐ離れた。
たぶん、この人はどう反応していいか、言葉をかけていいかわからない。
それか、そんな言葉は必要ないと思っているのだろう。

微笑んで、ディアルの手の甲に掌を重ねる。
ディアルは再び本に目を向けてしまったけれど、それでも、胸の内は温かった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
口数少ない相手とのほんのりハッピーエンド。それでも、やることはやらせないとね!